恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

しばらく二人は無言で海の方を見ながら食事を続けた。

「婚約者の方とは、あれから連絡はついたんですか?」
「いや」

「今回の理由に心当たりはあるんですか?」
胡桃はポテトをつまみながら思い切って聞いてみたが、壱世は黙っている。

「巻き込まれたんだから、知る権利があると思いますけど」

口を尖らせる胡桃に、彼はため息をついた。

「もともと」
若干面倒そうに話し始める。

「彼女とは前の仕事で知り合って、お互いの結婚相手に求めるスペックみたいなものが合致したから結婚を前提に交際していたんだ」
「スペックとは……?」

胡桃の質問に、壱世は一瞬ためらいを見せつつも答える。

「最低限身につけていて欲しい振る舞いとか知識とか、語学力とか、容姿とか……」
「容姿……」
彼の提示した内容に胡桃は理解できないとでも言うように眉間にシワを寄せる。

「だから言いたくなかったんだ。言っておくが、一方的ではなく向こうも同じようなことを求めていたんだ」

「まあ確かに市長はイケメンですけど、大人というかドライというか……。あれ? でも、だったら余計にいなくなるのはおかしい気が」

「なんていうか面倒なんだ、俺の家は。彼女からしたら想定外だったんだろうな」

壱世は諦めたようにため息をついた。