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翌日土曜の午後。

「はー。やっとサッパリできました。シャワーありがとうございました」
胡桃は、壱世のマンションで身体の汚れを落としていた。

「災難でしたけど、無事だったから貴重な体験だったかもしれないですね。これで高梨さんの件もしっかり捜査してもらえそうですし、もしかしたら櫻坂の再開発も中止——」
「違うだろ?」
胡桃が言いかけたところで、壱世が抱きしめる。

「本当は怖かったんだろ?」
耳元で優しく囁く。

「強がらなくていいから」
壱世の言葉に、胡桃の目から涙が溢れる。
「もう、なんでわかっちゃうんですか……」
「君の心の声なんて、声に出なくてもわかる」
壱世は優しく笑って胡桃の頭を撫でる。

「胡桃が素直に気持ちを言ったって言わなくたって、俺は心配するんだから、君もできるだけ本音で話してくれないか?」
胡桃は顔を埋めたまま小さく頷く。
そして、そのまましばらく壱世の胸の中で泣き続けた。

「……壱世さん」
「ん?」
「キス、してください」
胡桃は顔を上げた。

「そんな困ったような顔で言われても」
「だって、恥ずかしいんです。本音」
壱世はクスッと笑って、優しく唇に触れる。

「もう会えないかと思いました」
今度は胡桃が彼の頬に両手で触れ、唇を重ねる。

「今こんな風にあったかくて、安心します」
また唇が触れ合って、徐々に熱が混ざり合う。

「俺も、怖かった」
「ん……っ」
「胡桃に何かあったら、って」
「あ……ん……」

「腹空かせてるんだろうなって、心配した」

甘い空気のまま壱世はイタズラっぽく笑い、胡桃は頬を膨らめる。