***
午後五時半。
撮影に使っていた座敷では、橘が胡桃を待っていた。
「遅っ」
片付けをほとんど一人で終えた橘が思わずこぼす。
〝女将に挨拶に行く〟とだけ言っていた胡桃が三十分以上も戻ってこない。
「……」
たしかに胡桃はおしゃべりが好きなタイプで、女将と話が盛り上げれば長く話すことも考えられなくはないが、片付けを放り出すような人間ではない。
それに今日は『撮影もテキパキ終わらせて、絶対残業ナシ!』とも言っていた。
橘は「やれやれ」という顔で、胡桃の様子を見に行くため、座敷を出ようとした。
「撮影は終了ですか?」
橘が戸を開けるより前に、女将の方から顔を出す。
「え、はい……え?」
「何か?」
「うちの江田とお話しされてたんじゃないんですか?」
「江田さんですか? 先ほどこのお部屋でお会いしたきり、お見かけしていませんが」
「え? 女将にご挨拶するって言って出て行ったんですけど」
「はあ……」
女将の不思議そうな表情を見て、橘は彼女が嘘をついていないと察する。
「ちょっと店の中、見せてもらっていいですか? 女将さん、お手洗いを確認してもらえると助かります」
〝お腹が痛くなってお手洗いにこもっている〟とか、〝誰かに建物内の案内をしている〟、〝たまたま居合わせた有名人に取材交渉をしている〟が、橘が考える、胡桃のイレギュラーな行動パターンだ。
午後五時半。
撮影に使っていた座敷では、橘が胡桃を待っていた。
「遅っ」
片付けをほとんど一人で終えた橘が思わずこぼす。
〝女将に挨拶に行く〟とだけ言っていた胡桃が三十分以上も戻ってこない。
「……」
たしかに胡桃はおしゃべりが好きなタイプで、女将と話が盛り上げれば長く話すことも考えられなくはないが、片付けを放り出すような人間ではない。
それに今日は『撮影もテキパキ終わらせて、絶対残業ナシ!』とも言っていた。
橘は「やれやれ」という顔で、胡桃の様子を見に行くため、座敷を出ようとした。
「撮影は終了ですか?」
橘が戸を開けるより前に、女将の方から顔を出す。
「え、はい……え?」
「何か?」
「うちの江田とお話しされてたんじゃないんですか?」
「江田さんですか? 先ほどこのお部屋でお会いしたきり、お見かけしていませんが」
「え? 女将にご挨拶するって言って出て行ったんですけど」
「はあ……」
女将の不思議そうな表情を見て、橘は彼女が嘘をついていないと察する。
「ちょっと店の中、見せてもらっていいですか? 女将さん、お手洗いを確認してもらえると助かります」
〝お腹が痛くなってお手洗いにこもっている〟とか、〝誰かに建物内の案内をしている〟、〝たまたま居合わせた有名人に取材交渉をしている〟が、橘が考える、胡桃のイレギュラーな行動パターンだ。



