恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「土地さえ手に入れてしまえば、万が一住民が反対してもショッピングセンターの建設を強行して黙らせることができるでしょう。そうなれば、土地の買収費用なんて微々たるものですよ」
（副市長と、この人は誰？）

「ショッピングセンターの計画が上手く軌道に乗ったら、次こそ鹿ノ川さんに市長になってもらいますからね」
「頼みますよ、烏辺さん」
（烏辺……）

『烏辺グループか』

胡桃はどんな人物か確認しようと、戸の隙間からそ〜っと中を覗いてみることにした。
鹿ノ川と、向き合って座る六十代くらいの作業着姿の男性が見える。

（……あれ？　この人どこかで）
「改修工事に紛れて飯桐で会食とは、烏辺さんもなかなか」
胡桃の頭に、ある景色が浮かぶ。

（あ！　市のイベントで副市長と大声でしゃべってた人！　そうだ、烏辺グループって——）

烏辺グループの名前を見たのは飯桐ではなくSDGsイベントだったこと思い出した瞬間、鹿ノ川と烏辺が胡桃の方を向く。

何が起きたかを理解して胡桃は思わず手で口を覆ったが、当然もう遅い。

慌てて自分たちが使っていた部屋に戻ろうと後退りしたところで、背後に立っていた人物にぶつかった。
背後を見上げると、病院で鹿ノ川と一緒にいた四十代くらいのスーツ姿の男が立っていた。

（そういえば、この人もイベントの時副市長と一緒にいた）

「誰だ？」
烏辺と呼ばれていた男が不審そうな目で胡桃を見る。

「ん？　この顔どこかで……」
「最近市長とよく話している記者ですよ」
胡桃の顔に見覚えがあることに気づいた鹿ノ川に、背後の男が言う。