「ところで鹿ノ川さん」
(……やっぱり副市長)
先ほどの声の主は、胡桃の予想通りだった。

(まだ勤務時間中なんじゃないの?)
忙しく働いているであろう壱世のことを考えると腹立たしい。

「土地の買収の方はどうですか? 和菓子屋、そろそろ立ち退きそうですか?」
(……え?)

「いやぁ、うちの若い者に行かせてるんですが、なかなか渋いんですよ。新しいショッピングセンターに出店させると言っても首を縦に振らない」
(この話って……)

これが〝櫻坂の再開発〟の話だということは、すぐにピンときた。

「早く決着させないと、また市長派が嗅ぎ回って、計画自体が頓挫することになりかねないですよ」

「ですねぇ。まあ、あの秘書はしばらく動けんでしょうから大丈夫でしょう。〝交通事故〟にあってしまったんだから。ハハハ」
「鹿ノ川さんも怖い人ですねぇ。手段を選ばない」

(え? どういうこと? 手段を選ばない?)

病室での高梨や壱世の態度と言動を思い出す。

(……まさか、副市長が高梨さんに怪我をさせたってこと?)

胡桃の心臓がバクバクと嫌な音を立て始める。