「あ、すみません」
中から出てきた二人の男性とぶつかりそうになり胡桃は咄嗟に謝罪したが、相手は胡桃を無視してそのままスタスタと出て行った。

(今のって、副市長と……あれ? この前木菟屋から出てきた人じゃなかった?)

「……何も知らないんじゃないか……」
「……いやしかし、櫻坂付近で……」

(え? 櫻坂?)
二人の会話が断片的に耳に入る。

「……どちらにしろ、しばらく動けんだろうから……」

しばらく二人の後ろ姿を目で追って、ハッとして高梨の病室に入った。

「こんにちは」
「ああ、江田さん。こんにちは。わざわざありがとうございます」
高梨は脚をギプスで固定し、頭にも包帯を巻いた痛々しい姿をしている。

「大変でしたね、交通事故なんて。しかもひき逃げだって……」
「……」
胡桃の言葉に、高梨は一瞬表情を曇らせる。

「高梨さん?」
「あ、いえ。本当に災難でした。栗須さんにご迷惑をおかけしてしまうのが申し訳ないです」

「副市長もお見舞いに来られたんですね。土曜なのに」
「ええ、そうですね」
高梨はどこかイラ立ったような顔をする。

(怪我のせい? なんか高梨さんらしくない気がする)

「今副市長と一緒にいた方って、この前木菟屋から——」
「江田さん! その話は忘れるように言ってあるはずです」
高梨が険しい表情と声で言うので、胡桃は驚いて一瞬言葉を失う。

「声を荒げてしまい、申し訳ないです」
胡桃は無言で首を横に振る。

「あの、えっとこれ、お見舞いにフルーツゼリーを持ってきたので」
「ありがとうございます」

(今度はいつもの高梨さん)
高梨の表情の変化が胡桃を不安にさせる。

「コンコン」とドアがノックされる。