恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

『議会にタブレットを導入するってだけでこんな風に反対意見が出る。その先のソフトウェアやアプリの活用方法で議論したいっていうのに、先が長すぎる』
彼は深いため息をついた。

『上の世代の方には難しいんですかね』
『始めからそんなに難しいことをするつもりはないんだけどな。スマホもパソコンもみんな使ってるわけだし。胡桃の会社だってみんなパソコンもタブレットも使ってるだろ?』
胡桃は頷く。
胡桃の会社では、五十代以上の上層部もパソコンやタブレットを活用している。

『まあでも、うちはマスコミの端くれですし……現役時代はパソコンで編集業務をしてきた幹部も多いですから、ソフトに慣れてるんだと思います』
『市議会は市民の代表みたいなものなんだから、ベリが丘の街に相応しくあるべきだと思うが』

胡桃は以前に梅島編集長がこぼしていた『街は最先端なのに行政が追いついてないっていうのかな』という言葉を思い出した。
(たしかにこんなにオシャレな街なのに、市の中心が遅れてるって問題かも。みんなが桑さんみたいだったらいいのに)

胡桃はスマホを置いて、壱世に抱きついた。
『どうした?』
『……なんとなく、ギュッってしたくなりました』

毎日のように否定的な意見を耳にしているであろう壱世に、〝自分は味方だ〟と伝えたくなったが、言葉ではうまく伝えられない気がした。

彼はクスッと笑って胡桃を抱きしめ返す。
それから、いつものように胡桃の顔を上げて唇に触れた。