恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「えっと、ベリが丘本町の商店街、ご存知ですか?」
「ええ、ショッピングモールの近くだったかしら?」
胡桃は頷いた。

「その商店街に骨董品屋さんがあるんですけど、そこのご主人が趣味で時計の修理をされてて。すっごくマニアックな時計の研究までしてるので、直せるかもしれないです」
「あら、そうなの? 行ってみようかしら」
老婦人は嬉しそうな笑顔を見せる。

「お嬢さんはベリが丘に詳しいのね」
「はい! 生まれも育ちもベリが丘なので、ベリが丘大好きです」
胡桃もニコッと笑った。

「なら、おすすめのパン屋さんなんてないかしら?」
「あ、それなら食べたいパンの種類によって——」

胡桃が楽しそうにベリが丘の店の説明をしていると、近くにいた別のゲストも〝朝から営業しているカフェ〟〝深夜に女性一人で立ち寄れるバー〟〝めずらしいスパイスを購入できる食料品店〟などを次々に尋ねはじめた。
その一つひとつに、ベリビの取材で培った知識で答える胡桃にどこからか感嘆の声が漏れ、気づけばちょっとした人だかりができていた。

「オホンッ」という咳払いが聞こえ、そちらを見ると壱世が立っていた。
市長の登場に、人だかりが騒つく。

「ちょっと」
手招きして、胡桃を会場の外へ連れ出した。

「目立ってどうする」
「す、すみません。そんなつもりじゃなかったんですけど、素敵なおばあさまと話していたらいつのまにか……」

「素敵なおばあさま?」
「はい、シルバーのショートヘアがキリッとかっこよくて品がある感じの。そういえば、いつのまにかいなくなってましたね」

「シルバーのショートヘア……」
胡桃の言葉に、壱世は何かを考えるように眉をひそめた。

「まあいい。残りの時間は少し控えめに頼む」
「はい」