恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

食後に胡桃は紅茶、壱世はコーヒーを飲む。

(終わっちゃう……)
カップを手にして「ふぅ」と小さくため息をついた。

「壱世さんはさっきみたいに〝上辺〟だとか〝頭が固い〟ってときどき自分を悪いように言いますよね」
食後はしばらく静かだったテーブルで、胡桃が口を開く。

「でも、おじいさまみたいな良い市長になりたいって思って立候補して、改革案も掲げて、それに……街のことがわからないって一人で真剣に悩んでる」
胡桃は壱世の目を見つめた。

「今だって十分、街に誠実な良い市長だって思います」
壱世は黙って聞いている。

「私はベリが丘が大好きで、ベリが丘の片隅の編集部から魅力を伝えたいとか、少しでも楽しい街にしたいっていつも思ってます。だけどどんなに好きでも、やり甲斐を感じていても、微力だってわかってるんです」

胡桃は先日壱世とでかけたベリが丘のことを思い浮かべる。

「でも、壱世さんはベリが丘の中心から街を変えられる立場の人ですから。あなたが良い街にしてくれるって私も期待してます。それに……ずっと応援してます」

寂しい気持ちを我慢して、精一杯微笑んだ。

「ありがとう。君にそう言ってもらえると俺も嬉しいよ」

(全然違う立場だけど、私も壱世さんが……栗須市長が変えていくベリが丘に少しでも役に立てたらいいな)