「花嫁修行なんかじゃなくて、優しさだと思います」
「優しさ?」

「壱世さんのお家はやっぱりすごいお家ですし、結婚して親族になったら、パーティーだったりいろんな方とのお付き合いで食事に行ったり……大変そうですよね。十玖子さんは女性だとか男性だとかは関係なく、そういう場で自信を持っていられるようにって、教えてくれているんだと思います。厳しいけど、優しいです」
自分にはもう関係の無いことだと思うと、少し寂しくも思える。

「おかげで今、憧れだったお店で料理の味に集中できてますから。十玖子さんに感謝です」
笑って言った。

「壱世さんがお茶もお花も料理もできるのだって、きっと同じ理由ですよ。壱世さんはすぐにできるようになっちゃったみたいですけど」
「俺はイケメンだし器用だからな」
「冗談になってないですよ」
「ふふ」っと笑って、ワインを口にする。壱世もグラスを手に取る。

「俺は……何をやっても大抵すぐに人並みかそれ以上にできてしまって」
「すごいこと言ってますけど、事実ですね」
胡桃はほろ酔いで頷いた。

「そのせいで何をやっても〝こんなものか〟〝できればいいんだろ?〟という上辺で踏みとどまって、深く知る前に知った気になっていた」

(あ……)

『あの子は何もわかっていないのよ。物事の本質的なことが』

以前に十玖子が言っていたことを思い出す。