恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

「全然……十玖子さんは指導中は厳しいけど、いつも優しいです」
電話口だというのについ首を振ってしまう。

『だろうな。胡桃は十玖子さんにも気に入られているから』
(……その〝にも〟は、他には誰のことを言ってるんですか)
思ってみても質問する勇気は無い。どんな答えでも虚しくなりそうだ。

「あの、来週は……」
『ああ、そのことで電話したんだ。来週はまた休みにしてもらいたい。十玖子さんには俺から言っておく』
壱世の言葉に心が軋む。

(休みっていうか、もう行かなくていいってこと?)

『そのかわり、食事に付き合ってもらえないか?』
「え……」

『この間の勉強会と、今までのお礼も兼ねて』
(ああ……)

〝これで終わり〟なのだと理解する。

『ベリが丘で君を満足させるのは難しそうだけど』
「そんなことないです……チェーン店のラーメンだってハンバーガーだって満足です」

『そういうのも悪くないかもしれないが、もう少し君が喜びそうな店を予約しておく』
「……楽しみにしてます」

『じゃあまた連絡する。おやすみ』
「おやすみなさい」
そう言って電話を終えた。

「いいお店に一回行くより、ファーストフードに百回行きたかったな」

暗くなったスマホ画面を見ながらつぶやいた。