恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

シスルは紅茶とイングリッシュスコーンの専門店で、焼きたてのスコーンを買うには行列に並ばなくてはいけない。
胡桃は以前に十玖子たちにシスルが好きだと話したことがあった。
そして、レモンピール入りのスコーンは八月の限定フレーバーだ。

胡桃が驚いた顔をして、十玖子と柚木は安心したような表情を見せた。

(おいし〜! レモンピールとクロテッドクリームって合うかも)

「ジャムは和子さんの手作りなのよ」
柑橘系のマーマレードが数種類用意されている。

「え、柚木さん天才!」
柚木は「うふふ」と照れたように笑う。
「今度、作り方をお教えしますよ。簡単ですから」
「本当ですか? 楽しみで……」

自分に十玖子や柚木に会う〝今度〟があるのかどうかがわからなくて、言葉に詰まる。

「やっぱり今日の胡桃さんは変ね」
十玖子が心配そうにため息をつく。
「どうしたの?」

胡桃は〝何もない〟という意思表示で首を横に振る。

「私はお茶の時間に元気な胡桃さんとおしゃべりするのが好きなのよ。今日はめずらしく壱世もいないから、胡桃さんといつもはできないお話もできるんじゃないかと楽しみにしていたのだけれど」
十玖子に困ったように優しく微笑まれ、胡桃の胸は申し訳なさと寂しさでキュ……と締めつけられる。

(偽物なのに。嘘つきなのに。こんな風に言ってもらう資格なんて無いのに……)

「私……」
ポツリとこぼす。