恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

パーティーは、ベリが丘の男子バスケットボールチームのリーグ優勝を記念したものだった。
スポンサー企業が大手のため、パーティーも盛大だ。

(バスケチームか。今盛り上がってるから、たまにはスポーツ系の特集もありかも。あとで名刺……って、ダメだ、正体は明かさないように言われてた。スポーツの記事は担当したことがないから知り合いがいなくて助かったけど)

しゅんと肩を落としつつ、壱世が持ってきてくれた料理を口にする。
いろいろな素材が入ったテリーヌのようだ。

「なにこれ、おいしいっ」
思わず声を漏らす。

「そんなに?」
「はい! なんだろうこれ、松の実、ローズマリー? スパイスもきいてる。市長も食べた方がいいですよ」
満面の笑みで上を見た胡桃の口元に、壱世がクスッと笑って人差し指を当てる。

「〝市長〟じゃない〝壱世〟だ。婚約者なんだから」

「え、あ、そうでした、あはは」
自分を見つめて小さく笑う壱世に、胡桃は思わず頬を赤らめた。

そんなやりとりをしていると、壱世が壇上に呼ばれる。

「市長のあいさつをしなくてはいけないから、君は適当に食事を続けていてくれ」
「はい、がんばってください! えっと、壱世さん!」
そう言って小さくガッツポーズを作って明るく笑ってみせた胡桃に、壱世は一瞬驚いたような表情をした。

「ノリがいいのは助かるが、口の横についてる」
壱世は自分の口元を指差して胡桃に食べカスの位置を教えると、笑いながらステージの方に歩いていった。

胡桃は慌てて食べカスを拭う。

(栗須市長ってキリッとしたクールな顔のイメージだったけど、案外よく笑う。特集に笑顔の写真はマストね)

壱世は市長らしいソツのないスピーチをすると、壇上から降りてバスケチームの面々との挨拶を始めた。
しばらく一人になりそうな胡桃は誰かと名刺交換をするわけにもいかず、壱世に言われた通り食事を堪能することにした。