「いっそ、馬車を捨てて、別の道を行くか?」

 だが、その提案にシーベルは首を振る。
 
「それは無理です。この先は巨大な山脈によって分断されているのは殿下もご存知でしょう。カルチオラ山――そこを通る唯一の関所を抜けずに迂回しようとすれば、どうしても山越えをしなければならなくなる。越えるにも、迂回するにも一月ほどはかかりましょう。急ぎ母君を救おうというなら、どうにかしてこのまま関所を突破するしかないのですよ」

 メルはこの大陸の地図を頭に思い浮かべた。ここより東で縦に伸びるカルチオラ山脈。その切れ目に継ぐように建てられたカルチオラの関は、古くからアルクリフ王国への侵攻を何度も防ぎ止めた要衝らしい。シーベルの話では、今は国土は広がったため、以前より警備は厳重ではないにしても、それなりの守りは備えているということだ。

「いやはや、参りましたね。こうまで早く追手がかかるとは。気づかれていない内に商隊などに紛れ込み、なんとかやり過ごす手筈だったのですが……辿り着く頃には厳しい検閲が布かれているでしょう。まあ、私がひとりで潜入しなんとか指揮官を説得してみます。うまく丸め込めばこちら側に寝返らせることも出来るかもしれませんしね」