「一緒にご飯を食べようね」
「チュ!」

 嬉しそうな鳴き声を上げるチタを連れてメルは小屋の中に戻る。その頃には、麦がゆがふっくらと仕上がっていた。
 それを自分の器によそい、チタにもナッツを幾つかと小皿に水を用意してやる。カリコリという音と共に、ささやかだが穏やかな食事の時間が過ぎてゆく……。



 ――メルがこの場所に住むようになったのはもう十年以上も前だ。
 始まりは、名前も知らない少年のあの言葉からだったように思う。

『ふうん、君らがマーティル侯爵家の娘たちか。姉は美人で……妹の方は可愛いらしい顔をしているね』

 もう顔すら覚えていないが……派手な銀髪の、将来を約束された高貴な立場の彼の言葉に、隣にいた姉の目がぎっと吊り上がったのを当時のメル――メルローゼ・マーティルは見ていた。
 その時は気づかなかったけれど、きっとそこで、姉は強く認識したのだろう。
 妹が自分の未来において邪魔になるということを。