「――おやメル殿、こんな時間にお出掛けですか?」
「治安がいいとはいえ、婦女子ひとりで街巡りはよろしくない。お供しようぞ」
「え……。あ、見つかってしまいました」

 シーベルとボルドフだ。
 どこかから、たまたまメルが出て行く姿を見掛けたのか。ふたりとも、表情は明るいが、疲れた顔だ。これからの王座を支える重要な立場として、忙しさに追われているのだろう。

 ……彼らなら、きちんと気持ちを伝えればわかってもらえる気がした。
 メルは背筋を伸ばすと、深々と頭を下げる。

「ごめんなさい、私……ナセラ森に帰ることにしたんです。今まで、お世話になりました」
「やはりか……」
「そんなことだろうと思いましたよ。メル殿……せめて、もう少しだけ留まっていただくことは出来ませんか? 殿下のために」

 別れを口にしたメルに、ボルドフが残念そうに息を吐き、シーベルが眉を下げた。
 国王の死期はもう近く、そうなればラルドリスの戴冠式が行われる。それを見届けて欲しいというのだろう。しかしメルに、それまで待てる気はしなかった。