助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

 魔力の存在を知るメルの祈りは、魔術とは相反する性質を示した。 
 憎しみや敵対心に塗れた負の思念とは反対の、慈しみと友愛を内包する、正の思念。
 一度魔術師の術に直接触れたことでメルはそれらの操り方を理解し、また、広間に集まった人々の意識がラルドリスの演説によって切り替わったことも、正の思念の集合を大きく援けた。
 魔術師が放つ魔術が、白い光を纏うメルに触れた先から分解し、虚空へ戻ってゆく。

「なぜ! なぜだ、私にはこれしか償う方法はないというのに……!」
「誰かから、与えられるだけのもので……人は幸せにはなれますか!? 苦しみを乗り越えてでも、自分から誰かになにかを与えたことのない人が、してもらったことの価値を本当に理解することなんてできるでしょうか! そんなものよりも、あなた自身が彼を認め、心から信じて受け入れられる人に……なってあげて!」

 メルの心からの叫びが闇を貫くようにして、男へと突き抜けた。
 ……気付けば舞台袖の空間に居座っていた闇は姿を消し……ほのかな照明の光が戻っていた。魔術師がその場に崩れ落ちる。

 これでもう、ザハールが直接的な行動に出ない限りは、ラルドリスを害することのできる者はいないはず。

「はぁ、はぁ……」