(ラルドリス様の言葉が、皆の気持ちを変えつつあるんだ)

 国王ターロフの病臥により、暗く沈んでしまっていた人々の気持ちをラルドリスがきっと前に向かせた。魔術師が集めようとしている負の思念が少しずつ、薄まりつつあるのがメルにも見て取れている。

「もう……やめませんか。こんなこと……」

 メルは魔術師に問いかける。
 魔術は、危険な術なのだ。彼は恐らく自分の心をも削り、死をも厭わない覚悟で、それを使い続けている。それをきっと、ザハールは感謝も、悲しみもしない。
 メルにはこの男の覚悟が、悲しすぎた。止めてやりたかった。

「そうまでして、ザハールさんを王座に付けなければならないんですか! 本当にそれで彼は幸せになれるんですか!? 終わりのない欲望に駆られて、誰かを道連れにいつか破滅の道をたどってしまうだけなんじゃ、ないんですかっ!」
「黙れ……! 親が我が子にすべてを与えようとしてなにが悪いのだ……」

 そこで初めて、魔術師が剥き出しの感情を見せた。