壇上のラルドリスを聴衆に混じり観察していたシーベルは、周りの姿を見ながら思う。彼はこうして全員に話しかけながらも、確かにこの場のひとりひとりと向き合っている。心を通わせようとしている。その熱意が、誰かと繋がろうとする意志が、多くの者を導くうえで欠かせない要素となる。

「そこで俺もまた、初めて自分の心の奥底の意思に触れた。湧いてきたんだ、彼らに……幸せに生きて欲しいという気持ちが。無論、人はそれぞれ、身分や境遇、美醜、体格、色んな差を持って生まれてくる。そのすべてをまっさらにしてやることは、俺たちにはできない。しかし、かといって……誰かが生きることを諦めるような国にしてしまってはならないんだ! 俺たちが……」

 強い感情の籠った瞳で、ラルドリスは訴えかける。

「自らの存在価値を見出せず、その日をかろうじて生きるだけで精一杯の人たちが居るなら、俺たちこそが手を差し伸べないと! なぜなら、俺たちは彼らにこの国を任せてもらったから! 皆も、それぞれ守るべきものがあるだろう? 家族、自分の家、誇り、仕事……。それと同じように、周りの人も、その他の人もなにかを大切にして懸命に生きている。生きるべき目的を見失うまいと……その日その日を乗り越えようと、必死なんだ!」

 ラルドリスは左胸に手を当てると、声を振り絞った。