「ザハールも、意外にずいぶんとまともなことを言う。お前の差し金か、ティーラ」
「なんのことでしょう? この国を継ごうというのですから、当然のことかと」

 暇を持て余したのか、こちらに近付いていたティーラがくすくすと喉を鳴らした。瞳だけがこちらを向き、メルは緊張による震えを止めようと自身の腕を掴む。

「それよりも、なぜそちらの娘をこのようなところに? 公爵家の使用人と訊きましたが、次期国王候補の傍に侍るには少々場違いではありませんこと? いつものように、フラーゲン卿にお守をしてもらえばよかったのではないですか?」

 お前は一人前ですら無いのだと、微かに嘲りを含む言葉にもラルドリスは動じず、冷淡に返した。

「あいつにはあいつの仕事があり、俺は俺の仕事をする……それだけのことだ。もう子供だったときは終わった。それに、こいつは場違いでもなんでもない。こいつは、今までの俺の危機をすべて退けてくれた、最強の仲間で友だからな」

 ラルドリスがメルの肩を力強くぐっと引き寄せた。緊張していたメルにもその信頼は伝わり、確かな勇気が心に宿る。

「ふっ……そんな下女風情に守られ、絆されるなんて……王族の品格も地に落ちましたわね。せいぜい俗にまみれた発言でもなさって、笑い者にされるがよろしいでしょう」