横目で見るラルドリスの鋭くも強い志を表す顔に何も感じない神経を持つのは、愚かなザハールくらいだろう。そして、傍にいるあの女の存在も気に掛かる。

「よいな魔術師。隙を見てお前の役目を果たせ」
「必ず……」

 魔術師はここに至ってもその感情を露わにしない。まるで壊れてしまった人形の様に主命の受諾を唱えるばかり。そこからは、あらゆる意思が見えない。
 以前、この男を連れて来られた時にベルナール公爵から聞かされ、ティーラは魔術師の素性を知っていた。ザハールがそのことを知ればどんな顔をするのか……想像しておかしくなってしまったものだ。運命の果てに断たれた繋がりを、歪な形でも保とうとした哀れな親とその子……。
 もしもそんな彼が王位に着いたならば? そしてその子共が玉座を継いでゆくのなら、血筋などというものに、なんの意味があるのだろう?
 
(本当にくだらない悲劇。けれどせいぜい目の前で踊ってちょうだい……そんなものでも見ていないと、退屈でたまらないのよ。この世は……)

 この国が栄えようが沈もうが、どうでもいい。
 ティーラは魔術師から視線を切ると、表情を変えず、ザハールの手の甲に唇を付けて、壇上へと送り出した。
 もはや誰も止められない……この場でこれから起こる凶事は。