その裏には間違いなく、あのかつての王弟の息子、シーベルの存在がある。
 王国の外縁部に位置するフラーゲン領の領主でありながら、ラルドリスを匿い、己の姉が捕縛されるや否や、この城に王子を連れ帰った。
 後にフラーゲン領を任された王弟からその地位を受け継ぎ、広大な領地をなお拡げつつある彼に影響力があるのは分かっていたが、それはベルナール公爵の予想を大きく超えていた。

 そして、この逆転劇の要因には、なによりも第二王子ラルドリスの変化がある。自らは存在感を示さず、臣下に担ぎ上げられるままでいた傀儡の王子が、ここになってその資質を発揮し始めた。直接の面談は行っていないが、遠くから見ただけでも分かる。容姿はともかく、あの王子は、かつての国王の血を色濃く受け継いでいる。
 強烈に人を惹きつける求心力が開花した。それはかっての国王にすら届く勢いでこの宮廷を包み込み始めている。
 ターロフ王の背中に長く仕えたベルナールすら、明確にその面影を感じ取ってしまうほどに。

「……されど、仕方のないこと。このままにはさせぬぞ……前国王の意思を引き継ぐのは儂じゃ!」

 自分には二十余年の間、国王と共にこの国を支えてきた自負があるのだ。強烈な求心力を誇った現国王が病に臥し、同じく力を尽くしたボルドフが裏切った今、引き続き国を守り維持し続けることが出来るのは、その意思を最もよく知る自分しかいない。

「なんとしても……貴様らにはこの国を渡さん……!」