毒物の調査結果が出るまでの間、ラルドリスは城内の人間と交流を深めることに専念し始めた。
 シーベルやボルドフの力を借り、今まで関わりのあった人物や、これからの国にとって重要な役割を担うであろう者たちに、自分の意思を伝えて回る。
 ある者は取り合わず、ある者は冷淡な態度を取ったりもした。しかしその中にも彼の目に見える変化と、その真っ直ぐな気持ちに賛同する者はおり、少しずつだが、ラルドリスに会いにくる者も増え、周囲が賑わいを増してきた頃……。

「ラルドリス様、本日は直接お話する機会を与えていただき、ありがとうございます」
「どういう風の吹き回しだがな」

 その人物は、正式な手順を経てラルドリスの私室に出向き、完璧に整ったお辞儀をして見せた。

(お姉様、どういうつもりなの……?)

 ティーラ・マーティル。マーティル侯爵家の長女であり、第一王子ザハールの婚約者。
 そしてメルの姉でもあった彼女は、敵対する陣営に乗り込みながらも堂々とした態度を崩さない。
 ラルドリスから一歩下がり、シーベルと共にその来訪を迎えたメルは、頭を下げつつもその真意を測りかねていた。