ご満悦の顔でクルミの山に顔から突っ込んだチタを褒めてやった後、メルは彼からもらった宮女の髪の毛をそっと摘まみ上げる。

「へえ、あいつらの部屋に行ってきたのか。やるもんだな。だが……なにを見てきたのかは知らんが、そいつが喋れるわけじゃないよな? どうするんだ」
「あまり趣味が悪いので使いたくありませんでしたけれど、この頭髪を使い、彼女たちの記憶を覗きます」
「へえ……」

 疑問を解消されたラルドリスは、口を出さずに静観する。メルは棚に挟まっていた一つの銀盆を借りて机に置き、そこに水差しの水を注いで髪を落とすと、まじないを唱えた。

「『髪よ、記憶に最も近しき糸よ……かつて宿した主の想いの残滓を、この水鏡に映すがいい――』」

 ――ピチョン。

 メルは強く念じ、涼やかな音と共に、水面は波紋を広げるとぼんやりと光り出した。

『――お前たちは、ここで見たことは他言無用。もし、ばらしでもしたら……お前の家族はこいつの呪いにより、もがき苦しんで死ぬことになるから。いいわね』