「俺も冗談で口にできるものとそうでない言葉の区別くらいはつく。俺がもしザハールに劣り、国主に見合わぬと判断するなら、今ここで討つなり奴らに身柄を差し出すなり、どうとでもするがいい」
「……変わるものですな。何事にも興味を持たず、ただ王族として生まれたことを厭うておるように見えた、あなた様が……」

 ボルドフはラルドリスの意思が揺るがないことを確認すると、甲冑を鳴らしてしゃがみ、腰に佩いた大剣を恭しく両手で差し出した。

「先の短い老兵ではありますが、我が忠義、殿下に捧げたく思いまする。ぜひ、あなた様を守る楯としてこの命、存分にお使いくださいますよう」
「うむ、心強い。共にこの国を栄えさせ、民の笑顔を守ってゆこう」

 主従の誓いを交わすふたりを前に、メルにシーベルがこっそり教えてくれた。

『殿下が幼き頃、伯爵が剣を教えたのですよ。あくまで陛下に忠実たらんと王都の守りを司っていたため、これまでは表立ってどちらかに肩入れすることは叶いませんでしたが、この事態を重く見て立ち上がってくれたというわけです』
『な、なるほど、そういう関係だったんですか……』

 ボルドフの背中は長年の懊悩を示すように、わずかに震えている。そんな彼をじっと見ながらラルドリスが肩に手を置くと、老兵の目尻に僅かに雫の粒が浮かんだ。