(あの城へ、帰らなければ、いけないのに……)

 ――救わなければいけない家族がいる。
 青年はぐっと顔を上げ、空を見た。まだ月が浮いている。
 辺りは暗いが、もう数時間もすれば山間から太陽が顔を出すだろうという頃合い。彼はふと笑った。

(……どうして殺そうとするんだか、俺なんかを。そんな価値なんてないのに)

 もって生まれた身分だけの……こんな非才な自らを呪うだけの人間。
 それを周りはなにも知らずに持ち上げ、一方で邪魔だからと始末しようとする。馬鹿馬鹿しくて、仕方がない。

「俺のことなんて分かろうともしないくせに。ははは……あんたも、そう思わないか」

 霞む目の前には、ぼんやりとなにか人影のようなものが映っていた。節くれだった杖を持ち、とんがり帽子を被るそのシルエットは、お伽噺などの表紙によく見かける……そう、魔女のような。
 いよいよ朦朧としてきた頭が見せた幻なのかも知れないが、なんでもいい。誰かに愚痴でも言わないと、やっていられなかった。
 すると……もう輪郭以外があらかた姿を消した視界の中、幻は思いがけないことに青年に語りかけてきた。