なにも言ってはくれないのだけれど……その静かなたたずまいが、優しく感じられて。

 ――この家に、居たくない……。

 いつしか、そう思い始めた頃。必然の様に、そこで事件は起きた。
 ある意味願い通りに追放されたメルは、そこですべてを失い……。
 そして、救われた。祖母に。

『ここがお前の家だよ、メルや』

 祖母は心の開き方を知らないメルに寄り添い、その孤独を癒してくれた。まだ小さかったメルと手を繋ぎ、あるいはその曲がり始めた背中にメルを負ぶり、色々なことを教えてくれた。
 しかし、それも永遠には続かなかった。

 ……失われること。
 いつかは必ず待っている別れに対してメルは抗い方も、受け入れ方もわからなくて。
 手で受けた水が、隙間から漏れ出してゆくように――幸せがすり抜けてゆくのを、なすがままでいることしかできなかった。