仮に本気だと言われたところで、メルはナセラ森の魔女なのだ。祖母の後を継ぎ、あの森で暮らす。そう決めているのは自分なのに。
 一方で、ラルドリスが自分の存在を傍に求めてくれたことを嬉しく感じているのは一体なぜ……?

「どうした?」
「なんでもありません」

 次々浮かぶ困惑のせいで、返す笑顔が多少歪なものになってしまったかもしれなかった。自分で自分が分からなくなったメルは答えを求める衝動に対し、口の中でひたすら否定を繰り返す。

(ダメダメ、ダメ……。理由を聞きたいなんて……思っちゃダメだ。この人とは住む世界が、違うんだから……)

 逸る胸を抑えるには、いずれ顔も見られなくなる彼との差をしっかりと自分に言い聞かせるしかない。
 心につけてやれる薬なんて、魔女のメルとて知らないのだから。