さして動揺もみせず、けろっとした態度で今後の道行きを示すシーベルに、いつもなら食って掛かるせっかちラルドリスも聞き分けよく頷く。王都が近付き、失敗の許されない状況に緊張しているのがわかる。
 そのまましばし休息を取ると一行は立ち上がり、再び変装して旅人たちに混じり移動を開始する。
 襲撃を退けつつの大変な行軍ではあったけれど、これで王都までの道筋で一番の難関も越えられた。後は慎重に身を隠しつつ、城へと向かうのみだ。

「メル」
「はい?」
「お前が居てくれて助かった。ありがとう」
「えっ!? あ、はい」 

 飾り気のないまっすぐな感謝が不意打ちして、メルは戸惑う。
 そういえば、思い出した――少し前彼はメルに、自分に仕えないかと聞いてくれたのだ。
 しかしそれ以後、そのことについてはなにも触れないし、聞き出す機会もなかった。

(だからなんなの……冗談に決まってる。私は、なにを考えて……)