「好き放題言ってくれる……くそ、俺が誰だか教えてやりたい気分だ」

 憤るラルドリスを押さえる間、シーベルがこっそりベネアになにかを手渡していた。

(こちら、少ないですが昨晩の宿代と、頂いた小麦粉の代金です。断るというのは、なしにしてくださいよ)
(……ありがとうね。ウチもあんまり余裕があるわけじゃないから、いただいとくよ)

 囁きを交わし、目線を下げて感謝したべネアは、袋を懐に仕舞って明るい笑みを見せた。

「近くに来たらまた寄っとくれ。男手が有れば仕事も捗るしね。あんたたちなら大歓迎さ」
「ええ、またいずれ。それじゃあ、行きますか」

 さっぱりと別れの言葉を残し、シーベルはメルたちを促すと先に御者台に乗り込む。
 ラルドリスも続き、メルが最後にそこを離れようと思った時だった。

「メルちゃん」
「はい? あ、あの……?」