ベネアと似た、それより張りのある若い声が上階からして、トントンと身軽にひとりの人物が下りてきた。
 麦の穂色の短い髪をした彼女はメルたちを見回すと、手に持った工具をエプロンに仕舞い、小麦に塗れた手をパンパンと叩いて挨拶する。

「こんにちは、あたしハーシア、十五歳! その人の娘で、この粉ひき小屋の管理をしてるんだ。それでえーと……母ちゃん、どちら様?」
「旅の人だよ。領主の手下が村の作物を全部持ってっちまったのを助けてくれたんだ。そういやまだ、名前もちゃんと聞いてなかったね?」
「私はベル、この二人はラルとメル。東の街にいくために旅をしています。本日は宿や食料を探してこの村に来たところ、運よくその場に居合わせましてね。ベネアさんが泊めてくださるというもので、お言葉に甘えた次第で……」
「よ、よろしくお願いします」「……世話になる」

 警戒のためか、シーベルは名の知れた自分やラルドリスを偽名で紹介し、後ろに控えていたメルも頭を下げた。ラルドリスは腕を組んで成り行きを見守っている。
 ハーシアはそんな三人をじっくりと見渡した後、握手に応えた。

「へー、男前二人と可愛い女の子ねぇ。なんだか……事情がありそうな面子だけど、村の皆の恩人なら歓迎しなきゃね。母さん、今日はもう風車止めておくね。どうせ当分動かさないでしょ?」