しばらく歩き続け、今度は文房具屋の前で足を止めた。


「真帆さん」
「はい」
「これはいかがでしょうか」


先生が指さした先に目を向ける。
そこにはシャープペンシルとボールペンの複合ペンが置いてあった。

「僕は基本ボールペンしか使いませんが、真帆さんはシャープペンシルが殆どですよね」
「そうですね」
「これ、ピッタリです。学校でも使えます」

黒と青と赤と白の4種類。
有名なメーカーの高級ペンだ。

しかも、名入れ無料と来た。


「良いですね!」
「こちらにしましょうか」
「はい!」


…だけど、これ。
数学の授業中…にやけてしまいそう。

今ここで想像するだけで、こんなにもにやけてしまうのに。


「真帆さん。授業中、僕が にやけていたら教えて下さいね」
「ふふ、裕哉さんも同じこと考えているんですね」
「え?」
「私も今、数学の授業で にやけてしまいそうって思っていました」
「……そしてそんな僕らに気付いて、的場さんもニヤニヤします」
「確かに。そこまで見えましたね」


お互い目を見合って吹き出すように笑う。


「これも特別感です」
「はい。これに決定です」



先生は青。
私は赤。

2本のペンを購入することにした。




「裕哉さんの分、買わせて下さい」
「駄目です。働き始めてからです」


これは想像通り。
だけど私には、秘密にしていることがある。


「…秘密にしてたんですけど、夏休みに短期バイトをしました。だから、自分で稼いだお金です」
「え、バイトしていたのですか」
「同好会の活動が終わったあと、夕方までファミレスで少し」
「………なんと…」

先生はおでこに手を当て、口をぽかんと開けたまま固まった。

「……裕哉さん?」

黙っていたので、怒っているのかと思った。
しかし…どうも違うみたい。

「……真帆さん。何で教えてくれなかったのですか」
「え?」
「ファミレスの制服を着た姿、見ていません」
「…………え、そこ!?」

想像の斜め上を行く言葉。
先生にとって重要なのはそこなんだ。


「どんな真帆さんも、余すこと無く目に焼き付けたく思います」


怖い怖い!
そんな台詞を真顔で言うから怖い!


怖いけど、何だか笑いが込み上げてきた。


「ふふ、分かりました。また短期バイトする時は声掛けます」
「絶対ですよ」



私がお金を稼いだという話はファミレスの制服で流され、結局ペンは先生が2本とも買ってくれた。


「頑張って稼いだお金は、大切にして下さい。そうして下されば、これ程に嬉しいことはありません」


なんて言うから。
普段子供みたいなのに、先生はやっぱり働いている大人なのだと実感する。



ペンには名前を入れようとしたのだが、カップルには相手のイニシャルを入れるのもおすすめと言われ、私たちはそうすることにした。


裕哉さんの青いペンに『m』
私の赤いペンに『y』

小さく入れてもらった。