凄くいい天気。
まさしく、お出掛け日和。

「裕哉さん、おはようございます」
「おはようございます」


家の前まで迎えに来てくれた先生の車に乗り込む。



今日は、待ちに待ったお買い物に行く日だ。


「裕哉さん…格好がエロいです…」
「はい?」


濃い茶色のパンツに、黒いジャケット…。
黒いカッターシャツの第一ボタンを開けて、日頃学校でしないデザインのネクタイを緩く結んでいる。

そして、首筋から覗く細いシルバーのネックレス。
七三分けではない前髪に、縁無し眼鏡。


無理。
思わず実況をしたくなるくらいカッコイイ。



「最近どうしたのですか。エロいとか色気があるとか。思春期ですか?」
「…違います。裕哉さん自身に磨きがかかっています。刺さるのですよ、私の性癖に」
「性癖…どういうことですか?」
「…ここから先は有料です」
「………」


ここ最近は表情が凄く柔らかい。


悩みが前に比べて多少無くなり、生活に余裕が出てきたのだろう。
その余裕さが滲み出ている気がする。

…色気、エロさとして。



「因みに、知っていますか。エロと色気はイコールではありませんよ」
「残念。知ってます〜。勉強済みです」
「……貴女って人は…。そんなこと勉強する時間があるなら、もっと数学を勉強して下さい」
「嫌です。数学よりもこっちの方が捗ります」
「とんだ変態ですね」
「裕哉さんには敵いません」


苦笑いの先生は、左手で私の頭をチョップした。


「しかし、中間考査はなかなか良かったと思います。褒めて下さい」
「良かったですか? 31点で?」
「赤点回避しているから良かったのですよ!!」


1学期の期末は赤点だったが、この前は31点で回避出来た。
2年生になり、2回目の31点。

頑張った方だと思うのだけど。


「…ふふ、冗談です。いや、本当に凄いですよ。真帆さん、高校ではずっと赤点だろうと予想しておりましたので」
「それ凄く複雑です…」
「真帆さんの一生懸命なところ、大好きです」
「…ありがとうございます」



車は隣の県に向かって走る。
うちの生徒たちがいないであろう、遠いショッピングモールを目指して。



「真帆さん。もうすぐ修学旅行ですね」
「それですよ。2月でしたっけ?」
「はい。2月11日から14日です」

修学旅行。
3日目まではスキーで、4日目は東京の自由観光だ。

あまり乗り気では無いが、先生も一緒に行けるということで…。少しだけ、楽しみだ。

「僕も同行できること、非常に嬉しく思います。それと同時に、浅野先生と神崎くんがいることに不安を覚えます」
「…それは私も同じですよ。津田さんは裕哉さんのクラスにいるのですから…」
「浅野先生と神崎くんも、真帆さんと同じクラスです」
「そうですね」

どうしようもない事実に、お互い溜息が出る。


「津田さんとは文化祭の時以来、何かありましたか?」
「何か…というわけではありませんが…。凄く手伝ってくれるようになりました。回収した問題集を運ぶとか。些細なことなのですが、気付いたら横で手伝ってくれています」
「………」

そんなの、下心丸出しじゃない。
あからさま過ぎる。

「………何か、不満そうですね」
「はい。不満です。津田さん、早川先生のこと諦めてないと思いますよ?」
「…何でそう呼ぶのですか」
「私の彼氏は裕哉さんですけど。津田さんの好きな人は早川先生だから」

少し拗ねたようにそう言うと、先生は吹き出すように笑った。

「真帆さんが嫉妬している様子が新鮮です。いつも僕ばかりなので、嬉しいです」
「喜ばないでください。こちらは真剣です」


津田さん…修学旅行の時も何か行動を起こしそうで怖い。
ああいう真面目そうな子が、何をするか一番読めない。


「東京の観光って、完全に自由ですか?」
「そうです。班行動ではありませんので、決められた時間内でしたら自由に行動できます」
「………」


そうか。

……津田さんなら。もしかしたら、早川先生にくっついて行動するかも。

浅野先生はファンが多いから。
私のところには来られないだろう。

神崎くんは…知らね。



「真帆さん。何も考えず、楽しんで下さいよ」
「え?」
「高校生として行く修学旅行は最初で最後です。僕のような教師は、2年の担当になれば何度でも行く機会があります。……真帆さんと一緒に行けるのは最初で最後ですが。それでも、僕のことを気にするより、純粋な高校生として楽しんで貰いたいです」
「…でも…」

言葉を継ごうとすると、先生の手で口を塞がれた。

「僕は浅野先生とデートしますから」
「……ふふっ」

その一言が面白くて笑いが吹き出た。

浅野先生は引き留めておくから、純粋に楽しんでねということかな。


「…ありがとうございます。…しかし、裕哉さんと浅野先生のデートも見たいです」
「駄目です。見たら嫉妬しませんか?」
「え、私が浅野先生に?」
「はい。僕は嫉妬しますよ。的場さんに」


言っていることがおかしすぎて、笑いが止まらなくなった。


前から先生が有紗に嫉妬をしていたのは知っていた。
けれど、今もだなんて。


そしてこんな面白いことを真顔で言っているのが最高。
本当、飽きない。


「私は裕哉さんほど器が小さくないので。さすがに妬きません」
「……駄目です。妬いて下さい」
「また言った! それは強要するものではありません!」


先生、可愛すぎる。
好きすぎて愛おしい感情が溢れて止まらない。


「裕哉さんは、津田さんに気を付けて下さい」
「そちらも大丈夫です。浅野先生とデートしていたら、入る隙はありませんから」


その自信はどこから湧き出るのか。
少し得意気な顔が面白い。



車は隣の県に入り、もうすぐ目的のショッピングモールに着く。

先生と初めてのお買い物デート。
少し、ドキドキする。