帰りの車の中、先生はある話題を切り出した。


「結局、真帆さんのお誕生日を祝えておりませんし、プレゼントも用意し損ねております」



…確かに。
5月が2人とも誕生日で、また後日改めて祝おうって話していたのに。

その少し後に神崎くんの取り巻きに怪我させられて、完全にタイミングを見失っていた。


「そうですね…。私も裕哉さんを祝えていません」
「……あの、もし真帆さんが宜しければ。何かお揃いの物を買いませんか。実は5月の段階からそう考えており、プレゼントを用意していなかったのです。…どうでしょうか」
「お揃い…ストラップがありますよ」
「それはそれです。何か、身に付けられるものとか…」
「…ふふ」

意外と乙女チックだ。
私じゃなくて先生がそう考えるなんて。

「何で笑ったのですか」
「いや、乙女チックだと思いまして」
「……あまり笑っていると、襲いますよ」
「えぇ~…裕哉さんなら襲われても良いです」


そう答えると、先生は笑い出した。
それに釣られて私も笑いが零れる。


「しかし…学校では、止めておきましょうね」
「あれは裕哉さんがストッパーを外したのが悪いです」
「え、違いますよ。最初に行動したのは真帆さんの方です。あのせいで…学校で制服姿の真帆さんを見ると思い出してしまいます」
「変態ですね」
「健全です」


そんな会話をしてまたお互いに笑い合う。


「まぁ、冗談は置いといて。今度、何か見に行きましょうね」
「はい。楽しみです」



優しい笑顔の先生。
その笑顔が、大好き。


「文化祭実行委員、頑張ってください。不安ですが、僕は応援するのみです」
「ありがとうございます。嫌ですけど…頑張ります。…そう言えば同好会の方、私と浅野先生がいない間はどうするのですか?」

うーん…と少し考えていた。
そして、ポツリと呟くように言う。

「的場さんと2人なので、1人で自習をして貰います」
「え、教えないのですか?」
「教えません。同好会で数学を教えるのは真帆さんだけと決めておりますから」
「えぇー…何それ」


やけに自慢げに話す先生が面白い。
けど、これでは顧問失格だな。


「だから、終わったら早く来てください」
「それは勿論ですけど…あまり有紗を適当にしないでくださいよ」
「的場さんも僕に対してそんな感じなので、お互い様ではないですかね」
「まぁ、確かに…」


車は私の家の前に停まる。
先生と過ごす時間はあっという間だ。

「…さて。ここまでです。ありがとうございました」
「こちらこそ」


お互い頬にキスをして車から降りた。





…大丈夫。

明日からも、頑張ろう。