早川先生なら、どこに行くだろうか。



職員室か。
中庭か。

…空き教室棟か。




「……」




悩みながら廊下を彷徨っていると、教室棟に繋がる渡り廊下で早川先生を見つけた。

壁に肘をついて、中庭を眺めている。




「………先生」



その一言を聞いた早川先生は、勢いよくこちらを向いた。


「藤原さん…」
「先生の馬鹿」
「……」
「浅野先生と2人きりになるって分かるはずなのに逃げるなんて」
「…何かされましたか」
「ギューされて、チューされたので、逃げてきました」
「え!?」


ちょっと、意地悪をしたくなった。

早川先生は小刻みに震え始め、目には涙が溜まり始める。
教師としての先生と、個人としての先生が葛藤しているようだ。


それを無表情で見つめる私。
我ながら、悪い人。


しかし、私も嘘は得意ではない。

早川先生の感情を抑えている様子が可愛くて。
次第に…笑いが零れて来た。


「ふふっ」
「……何ですか。笑いが出るほど、浅野先生は良かったですか」


先生の目から一筋の涙が零れた。
完全にネガティブモードの先生だ。



…何だか、可哀想になってきた。



「…先生、ごめんなさい。嘘です。ギューもチューも嘘です。本当は、腕を握られたくらいです」


私の一言に目を見開き、両手を伸ばしてきた。
そして、強く抱き締められる。


「ちょっと、ここではまずいですよ!!!」
「…そうですね」


先生はすぐに手を離し、体を中庭の方に向けた。


「…だから、いつ取られるか不安だと言っているのです」


表情は見えないが、先生のその声は酷く悲しそうだった。