玄関の扉を開けると、目の前に車が停まっていた。
私に気付いた先生は窓を開けて声を掛けた。



「藤原さん。どうぞ」
「…はい」


何度目かの助手席なのに、今日は妙に緊張する。
前髪を崩している先生からは、いつもと少し違う雰囲気を感じた。



先生は、何も言わない。
私も、何も言わない。



重苦しい空気の中で流れるラジオは、明日の天気予報について解説をしていた。







私の家を出て10分後。変わらず重苦しい空気の車は、ある一軒家の前で停車した。

そして、そこの駐車場に慣れた手付きで駐車する。


「……着きました。うちです」
「…え?」

車を降りて辺りを見回す。比較的新しい家が並ぶ住宅街だ。
おしゃれな書体で“早川”と書かれた表札が目に入る。


…先生の家も、新しく綺麗。


しかしそれとは対照的に、玄関前に作られている花壇は何も植えられておらず、かなり荒れ果てていた。


「どうぞ。お入りください」
「…お邪魔します」


広い玄関にはスニーカーが1足だけ置いてある。
恐らく、早川先生の靴だ。



私は恐る恐る靴を脱いで家に上がった。


他の人の気配が感じられない。1人でここに住んでいるのかな?
そう思うも、この家は1人で暮らすにはあまりにも大きすぎる…。



以前、伊東と睦月先生が言っていたことを思い出した。
『ご両親の介護があるから顧問から外れている』という言葉。


しかし、ここにご両親も住んでいるとは思えない…。





考え事をしながら突っ立っていると、荷物を置いて戻ってきた先生が私を抱きかかえた。


「えっ!?」
「大人しくして下さい」

先生にお姫様抱っこされ、どこかに運ばれる。

「先生…」

私を抱えたまま、階段を上る。


上りきると、複数あるうちの1つの扉を開けて中に入った。




本棚いっぱいの難しそうな本。
1人用のローテーブルに、シングルベッド。

早川先生の部屋だと、直感で感じた。




先生はベッドの上に優しく私を下ろして座らせる。
そして先生も隣に座り、そのまま私を強く抱き締めた。


「先生……」
「ここなら、誰にも見られません…」
「……」



小さく頷くと、優しく唇を重ねてきた。
何度か重ね合いをし、先生はゆっくりと舌を絡めてくる。



「……ねぇ、真帆さん。今こうしている間…伊東先生の事、頭に過りましたか?」
「え。…そんなわけないじゃないですか。先生のことだけです」
「なら、良かったです」


もう一度唇を重ねて、私の目を見た。


「最近、スキンシップが少なかったですね」
「私たちが会うのは学校が殆どなので、それを封じると必然的にそうなります」

そうですね。と呟いて、先生は私から離れて正面を向いた。




「……ねぇ、真帆さん。どうして伊東先生の話、すぐにしてくれなかったのですか?」
「…言えないですよ。学校でも言いましたが、自分の中に複雑な感情がある限り…会えないと思っていましたから。…だけど、先生。信じて下さい。私が好きなのは、早川先生だけです…本当に…」


また涙が溢れて来た。
先生も目を潤ませて、私の涙を手で拭う。


「先生、ごめんなさい…」
「もう分かりましたから。大丈夫です…」


そう言いながら私が着ている上着を脱がせ始めた。


「あれ…制服のままだったのですか」
「着替え忘れていました。…私、先生に別れ話をされると思いまして。家を出るまで悲しんでいました」
「何故…。そんなはず無いでしょう…。こんなにも大好きで、やっと僕の物になった真帆さん。簡単に手放せません。どうしようも無いくらい…大好きなのですよ」
「私も、先生の事が好きです…」
「名前で呼んでください。先生って、どこにでもいます」


先生の意地悪…。そう思ったが、先生の目は本気だったから言葉は出さずに飲み込んだ。



「裕哉さん、好きです」
「僕も、愛しています。真帆さん」




また唇を重ねた。どちらからともなく、重ね続ける。
愛おしい感情が溢れてきて止まらない。





「…真帆さん。…その…宜しいでしょうか」
「…え?」
「嫌なら、嫌で大丈夫です」



先生は私の手を取り、真剣な目でこちらを見ている。






………先生の言いたいことが、理解できた。





「嫌では、無いです」

そう答えると、先生は微笑んで私を抱き締めた。







部屋の電気を消し、シングルベッドに2人が横たわる。
 
先生は自分のネクタイを解き、私のセーター服のタイも解いた。



「制服…。何だか悪い事をしている気がします」
「本音は?」
「………興奮します。そんなこと、言わせないで下さい」



優しくお互いを求めあう。
初めての経験でどうしたら良いか分からなかったが、ずっと先生がリードしてくれた。




先生と再度心を通わせた夜。





初めて、私と先生は一つになった。