青春は、数学に染まる。


2学期の終業式も終わり、冬休みに入った。
冬休みは数学補習同好会の活動をしないらしい。嬉しい!




伊東とは早川先生と仲直りをしたあの日から会っていない。
まぁ、関係無いから会わなくて良いけど…。





「藤原さん」
「あっ、先生」


雪が舞う最寄り駅。
今日はここで早川先生と待ち合わせをしていた。



所謂(いわゆる)、デートだ。



『補習が無い代わり、と言っては何ですが。僕とデートしませんか』と唐突に切り出した早川先生。


勿論、断る理由も無いからお誘いを受けた。
実は、凄く楽しみで昨日も眠れなかった。


早川先生と初デート。



小走りで早川先生の元へ駆け寄る。先生は、助手席のドアを開けて待ってくれていた。

「お待たせしました」
「大丈夫です、全然待っていません」

上着を脱ぎながら車に乗り込んだ。




今日の早川先生は七三分けをしていないし、眼鏡も掛けていない。

声を聞かなければ早川先生ということに気付かないだろう。



「今日の先生、いつもと全然違いますね」
「ふふふ、でしょう。身バレ対策として、日頃使用しないコンタクトレンズに挑戦しました」

そう言って笑った。
厚手のニットに黒のパンツ、白色のスニーカーを身に着けている。



「先生って本当はかっこいいのですね…」

思わず言葉が漏れる。
車を発進させた早川先生は少し怪訝そうな顔をした。

「本当は…? それはどういう意味ですかね…」
「そのままの意味です」

ふふっと笑うと先生も笑った。
学校の外で会うのは何だか新鮮だ。



「今日は隣の県に行きます。しかも、電車ではなかなか行けない場所にしましょう」
「はい。凄く楽しみです」

車は高速道路に向かって走って行った。




ゆっくりと時が流れる車の中。小音量のラジオから冬の歌が流れていた。

「そういえば、先生って何歳ですか?」
「言っておりませんでしたか。僕は29歳です」
「私より13年上(としうえ)ですか!」
「そうなりますね」


思っていたよりは若かった。失礼ながらも30歳代かと思っていた。

これは秘密だが。


「因みに、伊東先生は僕より上だと思いますか? それとも下だと思いますか?」



ん、伊東? 突然出てきた名前にビックリしたが…。
伊東こそ年上な気がする。



「年上ですかね。若く見える30代とか」

そう言うと噴き出すように笑った。

「ふふふ…。伊東先生悲しみますね」
「え?」
「伊東先生は27歳です。僕の2つ下です」
「ええ!?」

伊東は27歳に見えない! マジか!

「急に親近感が湧きましたか? 伊東先生やっぱり良いなぁとか思いました?」
「…先生の馬鹿」

何でそんなに卑屈なのか。
ていうか11年上(としうえ)の人に親近感なんて湧かないよ。

「そんなこと思いませんよ。私を何だと思っているのですか」
「ふふふ」

早川先生はネガティブだなぁ…。私が直してあげないと。




車は高速を走り続け、その間は会話を楽しんだ。
先生と会話をしていると時間が経つのはあっという間。






駅を出発して2時間が経つ頃、今日の目的地に辿り着いた。

「到着です」
「ありがとうございました」

着いた場所は国営の丘陵(きゅうりょう)公園だった。

噂に聞いたことがある。ここのイルミネーションは地方最大級で、凄く綺麗だとか…。来るのは初めて。




「丁度イルミネーションが見られる時期です。日中は沢山遊んで、夜はイルミネーションを見ましょう」
「はい!」

早川先生は車に置いていた自分の黒いマフラーを私に巻いた。

「…寒いので、これを付けて下さい」
「え。先生が付けて下さい。寒いですよ」
「ふふ、僕は大丈夫です。あと1つ。今日ここでは “先生”って呼ぶの、禁止です」
「え」

名前で呼ぶなんて気恥ずかしい!!
そう思ったが、先生の目を見ていると言葉が引っ込む。

「真帆さん」

急に名前を呼ばれて一瞬で顔が熱くなった。恥ずかしい。

「えっと…早川…さん?」
「違います。僕は裕哉って言います」

いや…勿論、知っていますけど。恥ずかしいじゃない…。

「……」

 私は勇気を出して呼んでみた。

「裕哉…さん」
「よろしいです」

そう言って私の手を握って先生のポケットに手を入れた。
先生の体温で繋いだ手は温かい。

「行きましょう」

ゆっくりと公園の入口へと向かって歩いた。