翌日、朝起きてもまだ心臓がドキドキしていた。何だか気持ちが落ち着かない。

「有紗、おはよ。昨日ノート貸してくれてありがとね」
「おはよう! 写せた?」
「全部写せたよ。助かった!」


ニコニコしている有紗にノートを返した。

ヘビみたいになっている文字があって読めなかったことは黙っておく。



「ねぇねぇ、真帆。あれから落ち着いた?」
「あー…うん、まぁ…」
「落ち着いてないよね…」
「というか…ね。また話聞いてよ」


悩んだ結果、昨日の事も有紗に話すことにした。…早川先生に秘密と言われたこと以外を。


 




中庭のいつものベンチ。
今日のランチは2人とも菓子パンだ。

私は借りたノートを写す為に、放課後の教室に残っていた事から話し始めた。

ノート写していると早川先生が様子を見に来て…。
その後夜遅くまでやっていたら早川先生が私の帰りを待ってくれていて、家まで送ってくれたこと。車に乗り込む前に伊東と会って謝られたこと。起こったことを淡々と話した。



その間、有紗は言葉を発さずに頷いていた。
一通り話し終えた後、有紗の方を向くと…な、泣いている!?

「何で泣いているの!!」
「早川先生…真帆のこと好きすぎるよ…」

ハンカチを取り出して涙を拭いながら有紗は言葉を継ぐ。

「私の中で伊東先生より早川先生の方が来ているよ。早川先生は優しいね」

確かに早川先生は優しい。補習が始まった時からずっと優しい人だった。
先生は私のことを優しいと言うが、先生だって同じだ。

最初も今も、私のことを一番に考えてくれる。

「というか、真帆も早川先生のこと好きになっているんじゃない?」
「…え?」

有紗の指摘に心臓が飛び跳ねた。私も、好き?

「家まで送ってもらう時間、嫌では無かったでしょ?」
「うん…まぁ」

嫌どころか、昨日も今朝も、そして今も心臓がずっとドキドキして落ち着かない。

今日は授業中も昨日のことを思い出してしまい、ずっと上の空だった。

「しかし…伊東も最初は良いって思っていたけど、ちょっと違うね。何だろう、やっぱり軽い感じが拭えないのかなぁ。真帆から聞いた話の範囲でしか判断できないけどね」
「そうだね」


でも確かに。
私の中で早川先生の存在が大きくなっている気がする。


好きかどうかは分からないけれど。



「有紗、今日は数学補習同好会に行ってみるよ。いつまでも逃げたってどうしようもないし」
「うん…そうだね。だけど、無理だけはしちゃだめだよ。私、真帆の事が心配なんだから!!」



有紗とグータッチをして意気込んだ。大丈夫、頑張れる。