噛んで、DESIRE



……吾妻くんが別人みたいだ。

美しい微笑は完璧に作られていて、わたしとは初対面だというふうに振る舞っている。


他人のふりをしたほうが良いのだろうと察して同じように話しているけれど、違和感が強い。

さらりと揺れた黒髪は、吾妻くんを一層大人に近付けている。


わたしを気遣う言葉を放つ彼に、父は慌てたように遮った。


「断るなんて、ありえないだろう。梓くんにはもったいない娘で申し訳ないが」

「いえ、そんなことないですよ」


間髪入れずに返答した吾妻くんは、笑みを絶やさない。

それがなぜかすごく恐ろしくて、普段は厳格な父もうろたえている。


「そ、そうか……?」

「ええ、素敵なお嬢さまではないですか」