「僕の家に帰ってこなくなったのは、きっと杏莉ちゃんのそばにいるのが心地良かったからなんだろうね」
「そうだったなら……わたしも嬉しいです」
吾妻くんにとって、わたしはどんな存在なのだろう。
彼がいまそばにいないから、聞くにも聞けない。
「梓が変わったのは杏莉ちゃんのおかげだな」
仁科さんはニコッと微笑んでそう言った。
「梓はよく自由になりたいと言っていたけれど。あんな決断をしたのは、きっときみがいたからだろう」
「……あんな決断?」
すべてを知るような、吾妻くんがいまどこで何をしているのかを知っているような言い方に、飛びついてしまう。
でも、仁科さんは優しげに目を細めるだけで、何も教えてくれなかった。
そういうところも、吾妻くんに似ている。
本当に家族なのだな……と思いながらもモヤモヤしていると、仁科さんはトランクを抱え直して言った。



