噛んで、DESIRE



……この人、いまなんて言った?



「え? 家の鍵?」

「そう。ここの鍵」



平然と吾妻くんが指差したのは、わたしの家……の、お隣。203号室。


だけど表札は……“仁科”と書かれていて、目の前の吾妻くんと一致しない。

それに、ここに住んでいる人は誰か知っている。


仁科さんは髭の生えたダンディーで紳士な男の人で、決して吾妻くんではないのだ。

……ていうことは、もしや。



「ま、まさか吾妻くん……」

「え、なに」


「まさか、実は泥棒……?」

「んなわけないじゃん」


即座に否定してくれて、ほっと息を吐く。

仁科さんは無事だ……と絶対違う思考を追っ払いながら、重ねて尋ねる。



「でも、ここは仁科さんのお家です。吾妻くんのお家ではないはず、です」