噛んで、DESIRE





「きみ、ここのマンションの人?」


まじまじと彼のお顔を眺めていると、吾妻くんはそう首を傾げて聞いてくる。

否定するわけもなく、こくりとうなずいた。


「202号室、です」

「へえ。席も家も、隣なんだ」


小さく呟いた彼の声は聞こえなくて、でも聞き返す勇気もなくて、曖昧に微笑んだ。


「そういえば、名前なんだっけ」



カチコチに固まってしまっているわたしを小さく笑ってから、吾妻くんはそう尋ねてくる。


その笑みには余裕さが滲み出ていて、なんとも恥ずかしい気分になる。

相手の一挙一動にドキドキしているのは、もちろんわたしだけだ。