噛んで、DESIRE




「帰りたく、ないなあ……」


父や母、そして妹がいる実家に帰るよりは、うんと息がしやすいけれど。

それでも、静まり返った家に帰るのは少しだけ寂しかった。


でもいつからか、ひとりには慣れてしまった。


ご飯を作るのも、わたしの分だけ。

それが悲しいとも、あまり思わなくなった。


……今日の夜ご飯は、何にしようかなあ。


なんとなく早足で家まで向かい、マンションの階段を駆け上がる。


シチューにしようかな、冷蔵庫に具材はあったかな……と呑気に考えながら、2階に着いた。

ふう、と息を吐き、そのまま202号室の自分の部屋に帰ろうと廊下を歩こうとしたときだった。

男の人が座り込んでいるのが見えて、誰だろうと警戒する。


ふ、不審者……?

心臓をバクバクさせながら相手の顔を見た瞬間、びっくりして目を見開いた。


「……え」


驚きのあまり、思わず声が漏れる。

こんな状況、ありえない。


だって────わたしの家の前に、金髪の彼が座っていたのだから。


あんなに綺麗な金髪を、見間違うはずがない。


声を掛けていいものか。

まだわたしに気付いていない彼にどう声を掛けようか、と迷った挙句、おそるおそる尋ねることにする。


「えっと、吾妻、くん……?」