のらりくらりと躱した吾妻くんは、まだわたしの家に入ろうとしない。
このまえとは違う雰囲気を、不思議に思う。
どうしたんだろう……と気になってわたしが尋ねる前に、彼はそっと口を開いた。
「俺さ、いつも帰る場所、なかったんだけどさ」
「……う、ん?」
真剣な話だろうか。
ドアを開けっぱなしなのが気になったけれど、それはともかく、吾妻くんの言葉に耳を傾ける。
帰る場所がなかったと言う吾妻くんは、その理由で、夜に出歩いていたということかもしれない。
少ない言葉ではわからない部分だらけだけれど、吾妻くんはわたしを見下ろして続けた。
「杏莉ちゃんの家は、すごい居心地良かったんだわ」
「……それは、光栄ですけど」
「光栄って。杏莉ちゃんやっぱ面白い」