「ダメですわ。シュン様との婚約は、来年の卒業式の(おり)にご指名くださいませ」
「卒業式で……? どうしてそこまで待たねばならないのだ」

 だってゲームではそうなってるし。
 それにさ。

「わたくし、イタリーノに留学することもあきらめておりませんの」
「ななななにぃっ!? そんなことは断じて許さんぞ」
「あら、わたくしシュン様との勝負に勝ちましたわよね? ロレンツォ様もいつ来ても良いとおっしゃってくださいましたし」

 夏休みに短期留学とかでもいいからさ。
 脱・瓶底眼鏡のために、なんとしても薄型レンズ眼鏡を見つけに行かないと。

「思いとどまってくれ! ハナコは魅力的な女性なんだ。これ以上余計な男が寄ってくるのは耐えられんっ」
「あら、シュン様が素敵な殿方でいてくださったら何も問題ございませんわ。わたくしの心が揺れないよう、一年努力なさってくださいませね?」

 山田以上のイケメンなんて、生涯現れっこないけどさ。
 イタリーノのイケメンたちを眺めに行くのも目の保養になりそうって感じだし。

 ごめんね山田、わたしやっぱりイケナイ悪役令嬢みたい。
 だって欲しいものは何もかも、手に入れたいって思うじゃない?

 絶望って感じの山田は、それでもとってもカッコ良くって。
 頬にちゅっとキスしてあげたら、いちばん大好きな天使の笑顔になった。

「とにかく卒業までの一年間は、わたくしの自由にさせていただきますわ」
「そんな、ハナコ……!」

 情けない声の山田の腕をすり抜けて、桜舞い散る学園を見渡した。

 婚約者指名まであと一年。
 わたしのしあわせへのカウントダウンは始まったばかり!




 おしまい