家族の操り人形として理沙は生きている。家族が糸を動かしているため、理沙は自分の好きなことができない。させてもらえない。

「絵なんて嫌いよ!」

震える声で理沙は言った。藍は首を横に振り、「これ見てよ!」と理沙に絵を見せる。それは自分の描いたものではなく、理沙が美術の授業で描いたデッサンだった。美術教師に頼んで借りてきたものだ。そのデッサンを見るたびに、藍の心が震えていく。

「授業でのデッサンなんて、時間は一時間もないはず。なのにここまで丁寧に繊細な絵が描けるなんて、絵が好きじゃなきゃできないことだよ」

理沙が藍の方を向く。その瞳からは、今にも涙が溢れてしまいそうだった。その初めて見る表情に藍の胸が高鳴っていく。藍は理沙の手を優しく取る。

「好きなものは好き、でいいと思う。例え家族でも人生を縛る権利はないんだよ。好きなことをしていいんだよ。僕も青春も、落合さんの青春も、一回きりしかないんだから」

理沙の瞳から涙が零れ落ちる。その美しい雫を、藍は理沙に対する恋心を自覚しながら拭った。