Hush night



……まだ、早いはずだ。

ここに現れるのは、あと、もうあと数分後のはずなのだ。


どうして、と動悸がする。

バクバクと激しく鳴る鼓動しか聞こえない。



今日に限って、神様は意地悪だ。



ざわっと揺れる闇夜の住人。



それが、なにを意味しているなんて……、当たり前にわかっていた。



……ああ、 逃げなきゃ。




本能的に、そう思った。

“あの男”には、……見つかってはいけないのに。



その想いを嘲笑うかのように、わたしの目の前で、突如止まった気配のない足音。


その主が、しゃがんでわたしを見つめるのが揺れる空気でわかった。






「あれ、女?」

「…………っ、」






───わたしになんか気づかないでよ。




見つけないでよ。

見えない振りしてくれていいから。



だって、いまいちばん会ってはいけない人。





その、わたしに声をかけた男。


出逢うすべての者を魅了する、圧倒的に強い男。




名は、冷酷で無慈悲な漆黒の帝王【レイ】。