「わたしたちが食事してるときに食べてるじゃないですか」
「食った気しねえよ。野郎に見張られながらとか」
クマは小鳥の顔で不快感を目いっぱいに見せるが、迫力はなかった。
「クマは、早く自分がいた世界に帰りたいとかはないんですか?」
「おいおい、質問するならそれ寄越せや」
クマが羽の先で、チョコが仕舞われた引き出しを指す。
(………)
「撤回しましょう」
「娘、割と強情だなー」
「これ以上迷惑をかけるわけには参りませんので」
そう言って琴理は、クマに背を向けて机に向かった。学校の課題もあるのだ。遊んでいる時間はない。
「あの小僧のことは気にならんのか?」
「小僧?」
「娘の学校終わりにいた奴さ。跡取りの叔父、だったか?」
「―――」
琴理は教材を準備するふりをして答えなかった。背中に冷や汗を感じる。
クマはクマで、淋里に興味があるのだろうか――。
「……知っていても、誤魔化して話さないですよね、クマは」
「さてなぁ? 気分によっちゃあ話してやらんこともないぜ」
クマは相変わらず小鳥の姿で、羽を使わずにふよふよと浮いている。
(これは信用できる言葉ではありませんね……無視しましょう。……けれど本当に、わたしには手札がないですね……)



