――心護を認めていないのではなく、別の理由。まさしく愛理が言ったそれだった。
「妻だけを責められることではありません。私も同じです。心護様を軽視するつもりはありませんが、あのときの淋里様は先の見えない私たちにとって、言葉では尽くせないほどの助けをくださった方なのです」
普段感情を見せた喋り方をしない父の声が、抑揚激しく紡がれる。
――そのとき、窓ガラスを叩く音がした。
「やっほー」
「そう、そんな風に……え」
「え」
「え?」
「あら」
父、母、琴理、愛理の順の反応だ。
応接間の窓から、淋里が入ってきた。器用にも和服姿で。そして琴理を見て、にぱっと笑う。
「一週間ぶり、琴理ちゃん」
目下の要注意人物にして、襲われて倒れたはずの人物が、まったく元気な様子で窓を超えてくる。
応接間は一階だがここは花園邸。格上の家柄とはいえ、淋里は部外者になってしまうのに。
「なんで淋里様が――」
「淋里兄さん、呼ぶまで待っていてくださいと言いましたよね?」
戸惑う琴理を制するように、心護が淋里に顔を向けた。
淋里の登場に全く驚いておらず、その言葉からもいて当然のように思っているよう。
「いやー、なーんか僕にイヤな展開になりそうだったからさー。ねえ、花薗?」
淋里ににっこり微笑まれて、父と母は押し黙った。
色んな情報が錯そうして収集もつかない中、琴理は自分に言い聞かせる。
(落ち着きなさい、わたし。冷静に……冷静に……)
自分を落ち着かせるように胸のあたり押さえて、琴理は心護にたずねる。
「心護様、先ほどのお話はなんだったのですか? 淋里様がお倒れになったという……」



