「琴理さんから少しだけ聞いています」
心護は隠さず答える。
その件を宮旭日内で知っているのは、心護と公一、詩のみだ。
母の膝の上で重ねた手が小さく震えている。
父はそんな母を労わる眼差しを向けるが、今母は心護と話している。その邪魔は出来ないとわかっているのだろう、声をかけたりはしなかった。
母はか細く震える声で話した。
「あのとき……助けてくださったのが、淋里様だったのです」
「淋里兄さんが?」
それは心護も知らなかった情報のようで、心護はそう返した。
「はい……。ふらりと現れて、琴理と私に残された毒を、綺麗に祓ってくださったのです」
「琴理にも毒があった、と?」
「その説明は私から。あれの本来の目的は妻だけでなく、琴理、そして愛理でもあったのです」
父が母に代わって話した。
琴理は、自分が危険だった記憶などない。
だから母と父の話を、完全には信じられていないが黙って聞いていた。
「まず妻がたおれ、遅れて琴理も……。妻の毒と琴理の毒、犯人は既に自死していましたので解読が難しく、手詰まりになっていたところへ淋里様が現れて助けてくださったのです」
「そ、そんなことがあったのですか? わたし、全然憶えていなくて――」
琴理も必死に記憶を掘り起こす。
そんな琴理を見た母は、痛みを抱えたような顔をしていた。
「琴理自身、苦しんでいたのよ。でも淋里様が琴理から毒を祓ってくださって、嘘のように回復したの。幼い時分だし、憶えていないのだと思うわ」
琴理に視線を向けていた母は、また心護へ体を向けた。
「……恩義です。私は淋里様に、琴理の命を救ってくださった恩義を感じています。ですから琴理の嫁ぐ先として、淋里様を望んでしまっていました……」



